Untold story

ものづくり秘話

東京西川 タオルソムリエ茂木 秀暁
2002年、東京西川入社。地方百貨店営業を経てタオル課に所属し、2008年にタオルソムリエ資格を取得。
お客様目線での商品開発にこだわりを持ち、本当に喜んでくれる姿を見たり、
お声を聞いたりすることに、大きな喜びを感じている。
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作り手目線のモノ作りで置き去りになっていた、“お客さまの声”

お客さまの声 イメージお客さまの声

—— 「watairo」に触れてみて、ヒットの理由が分かった気がしました。そもそも開発は、どのようなところから始まったのでしょう?

タオル開発に携わって10年近くになりますが、どんなタオルを作ろうか思い悩んだ時期があったんです。私たちはいわば、タオル作りのプロ。これまでの経験や知識から、タオル作りのことを知りつくしているつもりでした。
けれど、頭でっかちになって、技術や素材の活かし方ばかり考えて作り手目線のモノ作りになっていた…いちばん大切なお客さまが何を求めているかが、置き去りになっていることに気づかされたんです。そこが原点でしょうか。

—— つまり、お客さまがタオルに何を求めているかを知ることが、開発の原点だったということでしょうか?

その通りです。実際にタオルソムリエとしてお店に立ち、お客さまに直接お話を聞いただけでなく、タオルのお好みについて広くアンケートを取ったところ、タオルに求める要素として圧倒的に多かったのが「やわらかさ」でした。ほぼ100%の方が、そう回答していたと思います。

—— そこまでとは驚きですね。毎日欠かさず使うものだけに、もっとお好みが分かれるようなイメージがありますが。

恥ずかしながら、私も目からうろこでしたね。
例えば、高級ホテルの客室に用意されるタオルは、やわらかさよりもボリュームに重きを置いた、しっかりとしたタイプが多いんです。そのため「上質なタオル=しっかりしたタオル」というイメージをお持ちの方も多いと思いますが、それでもご自宅で使いたいのは、やわらかなタオルということが見えてきたんです。

何が求められて イメージ何が求められて
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何が求められているのか?耳を傾けたから分かった、やすらぎの触りごこち

安らぎの触り心地 イメージ安らぎの触り心地

—— たしかに「watairo」に触れた瞬間、ホテルで用意されるタオルとは、また違った上質さを感じました。ふんわりとした肌触りに癒やされたというか、ホッとする感じ。

まさにそこだったんですね。
顔を洗うたび、お風呂に入るたび、毎日のくらしに寄り添うアイテムとして、タオルに癒やしや安らぎを求めていると言うことを、お客さまの声が教えてくれました。そして、それを叶えてくれるのが、ずっと触れていたくなるような「やわらかさ」だったんです。

—— お客さまの求める「やわらかさ」を実現する。“タオル作りのプロ”として、腕の見せ所ですね。

そうなんです。ただ、一口に「やわらかい」と言っても、その感じ方は非常に千差万別であると言うことにも気づかされました。お客さまの声に耳を傾けてみると、もこもこと顔を埋めたくなるような風合いを「やわらかい」と言う方もいれば、さらさらと撫でていたくなるような風合いを「やわらかい」と言う方もいます。
さまざまなやわらかさがあるなかで、できる限り多くの方に満足いただけるものを作りたいと、多彩な風合いを用意しました。数ある試作の中から吟味して選んだ結果が、このバリエーションなんです。

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—— だから「watairo」には7種類ものバリエーションがあるんですね! たしかに、それぞれの肌触りがはっきりと違いますよね。

さまざまなやわらかさを表現するために。風合いと品質のせめぎ合い

感じ方は非常に千差万別 イメージ感じ方は非常に千差万別

—— この違いはどのように出していくのですか?

人間を例にしても、力士のように体格のいい方は力強いイメージがあり、スレンダーな方はしなやかなイメージがありますよね。タオルも同様、糸が太ければしっかりとした風合いになり、細ければ、まるで風にそよぐような、やわらかな風合いに仕上がるんです。

風合いと品質のせめぎ合い イメージ風合いと品質のせめぎ合い

—— 言われてみれば、ホテルのしっかりとしたタオルは、糸が太いような気がします。

さらに織り方にしても、糸の密度を高く織れば、ぎゅっとタフな風合いになり、密度を低く、ゆったり織れば、ふわふわと繊細な風合いになります。もう一つ、毛足の長さと言えば分かりやすいでしょうか。タオルから伸びるパイルの長さによっても、触り心地が変わってきます。長くすれば長くするほど、パイルの1本1本に動きが出て、まるでお肌に寄り添うような、やさしい触りごこちになるんですよ。

—— 糸の太さ、織り方、パイルの長さ。3つをどう組み合わせるかによって、いろんなやわらかさが生まれるんですね。

ただ、糸が細ければ切れやすくなり、織り方の密度が低く、さらにパイルが長ければ、糸が抜けやすくなる。つまり、使ったときに、毛羽が付きやすくなってしまいます。やわらかさが表現できる反面、製品としてのもろさにつながりかねないんです。

—— 期待を込めて使った新品のタオルなのに、毛羽が付いてしまってがっかりしたことがあります…。

試作の段階では、毛羽が付いてしまう製品もあったんです。これをクリアするためには試作に次ぐ試作、それしかありません。
しかもタオルは繰り返し、毎日のように使っていただくもの。試作が上がってきた段階では触り心地がよくても、本当の品質はわかりません。半月、1か月と使ってみて初めて、「お洗濯をしても毛羽が付かないね」だとか「繰り返し洗っても、やわらかなままだね」と評価できるんです。ですから、試作が商品になるまでにも、実際に使ってみて検証する長いプロセスが必要なんです。

職人さえ悩ませた無理難題 イメージ職人さえ悩ませた無理難題
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今治の職人さえ悩ませた無理難題。しかし、お客さまの声に応えるために

きっと理想を形にできるはず イメージきっと理想を形にできるはず

今治にあるメーカーさんとの打ち合わせも、これまで以上に真剣勝負でした。彼らはみんなこだわりを持った職人なので、糸が切れやすかったり、パイルが抜けやすくなったりするやわらかな風合いよりも、しっかりとしたモノ作りを良しとします。
「watairo」で挑戦した、やわらかさと品質の両立はいわば諸刃の剣なんです。はじめに開発の相談に今治を訪れたときには、「それは、ちょっと無理だよ」とメーカーの方に言われてしまったんです。

—— 今治は、全国に知られたタオルの名産地ですよね。その今治のメーカーさんを持ってしても難しいとは。

製品としてデメリットになるリスクを避けるのは、職人として当然のことです。けれど、今お客さまが求めているのは、圧倒的に「やわらかさ」。これを表現できれば、必ず喜んでいただけるというすごい自信がありました。

—— しかし職人さんが手を動かしてくれなければ、前に進みませんよね…。

私たちには、長きにわたる寝具の製造を通して培ったノウハウがあります。私たちが持つノウハウと熟練の職人の技術力があれば、きっと理想を形にできるはずだと信じて、何度も説得を重ねました。

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西川のノウハウと今治の技術、そして美しい水が「watairo」を作った

いざ、製造が始まってからも「それは難しい」「だけどお客さまが求めているんです」と、何度もこんなやり取りを繰り返しましたね。しかし私たちにとってもメーカーさんにとっても、自分たちが作ったタオルを喜んで使っていただくことが、何よりの喜び。お互いに共通した大きな柱があったからこそ、前に進むことができたんです。今となっては、いい思い出ですね(笑)。

今治産だからこそ イメージ今治産だからこそ

—— ここまで来るとビジネスを越えて、タオルを愛する者同士のぶつかり合いですね。

やわらかさと品質を両立するには、どうしても、今治のメーカーと共に作る必要がありました。技術力はもちろん、今治には、品質の高いタオルを作るのに欠かせない、きれいな川が流れているからです。
蒼社川(そうじゃがわ)というのですが、ここから引いた澄んだ軟水を利用して洗うことによって、一から美しい状態で、タオルを作り始めることができます。やわらかな風合いが生まれるだけでなく、糸が無垢な状態に戻ることから、吸水性も抜群になるんです。

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さらなるやわらかさの追求を イメージさらなるやわらかさの追求を

人の肌に寄り添い続ける老舗の使命として。さらなる、やわらかさの追求を

—— その豊富なやわらかさがお客さまのお手元に届いた今、茂木さんのもとへは、どんな声が寄せられているのか教えてください。

お客さまの声に耳を傾ける大切さに気づいたことで、以前よりお店に立つ機会が増えたんですが、「やわらかい!」と感激してくださる方がいたり、「気持ちよかったからまた使いたい」とか、「贈り物にしたくて」と何度も足を運んでくださる方がいたしてり、とても嬉しく思います。お客さまの笑顔を見たときに、いただいた声を商品に反映できたのではないかと実感しています。今はさらにやわらかく、気持ちよく、多くの方に安らぎを感じていただけるタオルが作りたいと、うずうずしているんです(笑)。

—— すると「watairo」は、まだまだ進化していくんですね。

期待してください。
私たちは、タオルを作り始める以前から、長く、人の肌に寄り添う寝具を作り続けてきました。くらしを豊かにするにはどのようなものが必要だろうかと日々考えています。タオルもそのひとつ。これまで以上に、今治の方々に難しいお願いをすることもあるかと思いますが、お客さまの声を実現するために二人三脚でさらなるやわらかさを追求していきたいと思います。

茂木 秀暁
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